オーディオシステムにおいて、電源ケーブルを変えると音が良くなる、というのはオカルトだという意見がある。つまり、科学的エビデンス(根拠)が無いというわけだ。
単純に電源の通り道と考えるなら、壁の中のコンセントまでの電気の経路に対して、コンセントからオーディオ機器までの1m程度を入れ替えたところで、何も変わらないはずだと考えるのは妥当だ。
ところが、その1m程度の電源ケーブルを変えただけで音質が変わるという意見も多い。最も、その変化が必ずしも良い音になるかというと、そうでもないそうだ。
もともと、音の変化は微妙なので、音源の種類や個人の好みなどもあり、一概に音が良くなるとは言えないみたいで、それがゆえにオカルトという話になるのだろう。
人の感覚は不思議なもので、見えざる何かが見える人もいる。最終的には脳が判断しているにすぎないので、感覚を他人と共有出来るかどうかは、それこそオカルトなのかも。
私個人としては、音の良し悪しはともかく、音は変化するだろうと思う。
私がチャーリー・ヘイデンのクロースネス(CHARLIE HADEN/Closeness)のLPを聞いていた1980年頃のオーディオ雑誌では、A級とかスイッチング歪、LPレコードなのでプレイヤーの回転ムラやイコライザー、カートリッジのMMとMCとか話題が豊富だった。
アンプのカップリングコンデンサーの違いが話題になり、そのコンデンサーを使わないDCアンプなんてものまで登場していた。
当時はすべてがアナログ回路だったため、議論は尽きない時代だった。
電源に関しては、主に電源トランス、平滑コンデンサ、チョークコイルのサイズがカタログスペックの比較対象だったように思う。真空管、トランジスタ、FETと素子は多様だったが、コンセントからの交流電源をいかに安定した直流にするかが電源の目的で、消費電力が変動しても、直流電源の電圧変動や交流成分の残滓であるリップルをいかに低く抑えるかがスペックとして重視されていた。
なので、コンセントから電源トランスまでの電源ケーブルについては、それほど重視されてはいなかったように思う。壁の中のケーブルと同等で十分だった。
話を現在にもどす。今はデジタル技術の発展で、D級アンプなるものがオーディオ用として存在し、それなりのスペックを誇っている。昔のA級アンプとかの議論からだと、なぜD級アンプでそんなことが可能なのか?と思ってしまう。
しかし、スピーカーの振動板の動きは、正弦波よりは、矩形波の断続信号の方が親和性は高いように思う。そして最終的な音質は、その振動板から空気に伝わる音によるのだ。
さて、アンプもデジタル化され、少しくらいの電源変動による信号の劣化は起こらないとされている。また、定電圧化の方法も、スイッチング電源になり、スペック上は昔のような大きなトランスやコンデンサは不要になったようだ。
さて、電源ケーブルの話に戻ろう。アナログ回路の場合、扱う周波数は20-20KHz、俗にオーディオ周波数帯になる。一方、デジタル回路でアナログ信号を処理する場合は、すくなくとも元の周波数の2倍のサンプリング周波数が必要になる。CDのサンプリング周波数は44.1KHzだ。
アナログ動作の場合、入力信号の周波数に応じた速度で動作しているが、デジタル動作の場合は少なくとも常にサンプリング周波数で動作し続けている必要がある。44KHzという周波数は、無線通信では長波帯になる。
このくらいの周波数になると、1mの導線であっても、そのリアクタンス分が全システムに影響するのではと愚考している。リアクタンスとは交流抵抗ととらえてもらえばわかりやすいかも。
スピーカーを接続する時、アンプの出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスを合わせて接続する。これをインピーダンスマッチングと呼んでいる。
同様に考え、コンセントからの電源供給の出力インピーダンスとアンプ側の入力インピーダンスのマッチングの為に電源ケーブルが存在していると考えると、どのような変化があるかはともかく、電源ケーブルにも意味がありそうだ。
この場合、直流分による影響はないかなと思う。では、交流分がなぜ音質に、つまりシステムに影響するのだろう?
一つの仮説なのだが、昔電灯線アンテナというものがあった。コンセントにつないで、ラジオのアンテナ代わりにする代物だ。コンセントは電柱の上にある電線につながっている。その長大な電線には中波ラジオの高周波信号が乗っているので、それを受信しようとしたものだ。
デジタル動作周波数やその倍数の周波数成分の電磁波が回り込むことで、オーディオシステムは影響を受けないだろうか。回路が共振することでなにかしら影響があるのではと考えられるのだ。
電源ケーブルでその共振周波数をずらしたりできれば、音に変化があると言えるのでは、と思うわけだ。